《たいすけ》の山よもやま話 山の法律相談3 善意の行動

      山の法律相談(3) 善意の行動  

                               岳 遊 子


□設問: 他の登山者に誤った情報を教えてしまったら:


 山行中に出会った登山者がどの方向へ下山するか悩んでいたので、親切心から以前に歩いたことがある登山道を教えた。後日、最新情報を調べたところ、今ではその道はほとんど歩かれておらず、かなり荒れていることがわかった。もし道を教えた人がそのコース中で教えを受けた人が遭難してケガをした場合、何らかの責任が生じるか?
回答: 相手のためを思って行った行動は民法上で事務管理にあたる。事務管理とは、本来は義務のないことを他人のために行うことで、行為をする人には一定の注意義務が生じる。たとえば、登山中に携帯電話を拾ったので、下山したときに麓の交番に届けようとしたとする。でも、もし途中でうっかり落として電話を壊してしまった場合には損害賠償を負うので、落とさないように注意して持ち運ぶ必要がある。このように、善意で行うことであってもそれ相応の注意が求められ、設問のような道を教えた人に「一定の注意」が足りなかったと言える。
□しかし、山行中にルートを判断するのはあくまで登山者自身であって、道の状態や地形からその道が
通行できるかどうかは自分で判断しなければならない。また自分が聞いた情報が間違っているリスクがあることを認識しておく必要がある。そのため、今回のケースでは登山者がコースの判断を誤ったことが遭難の直接の原因と見なされ、教えた人に責任が生じることはない。
□登山では自己判断が求められる。この点から、たとえガイドブックに掲載されていた古い情報やコース中にあった古い道標を見て遭難したとしても、最終的には登山者の判断ミスが遭難につながったと見なされるケースがほとんどである。

 

 

□ボランティア活動者の注意義務


ボランティア活動としての登山には、子供会、自治会、PTAなどの活動のように委任関係のある場合と、緊急時の救助活動のように委任関係のない場合がある。委任関係のある場合には委任契約の基づく注意義務が生じる。委任関係がない場合には、事務管理に基づく注意義務が生じる。義務的行為でなくても、本人の最低限の利益を保護するために、一定の注意義務を課するのが、事務管理に基づく注意義務である。
ボランティアは、本来、自発的であることをさすが、日本では、無償であることをボランティアと呼ぶことが多い。無償の行為であっても、引率者は、委任契約または事務管理に基づいて注意義務を負う。
自発的なボランティア活動は、注意義務を負うことも含めて「自発性」に基づく行為である。責任を負いたくなければ、ボランティア活動をすべきではない。しかし、ボランティア活動が「義務的」であることが多く、義務的な行動には「嫌なら、しなければよい」が成り立たない。そのため、ボランティア活動で責任が生じることに対する反発をもたらしやすい。しかし本、本来、ボランティアは、自発的であることに本質があり、行動の結果としての責任も自発的に背負うものである。
従来、ボランティア活動中の事故について刑事責任を問われることは稀だったが、最近は過失事故に対する世論の避難を反映して、ボランティア活動中の事故について業務上過失致死罪として起訴されるケースがある。
*参考文献:「山岳事故の法的責任」溝手康史著 星雲社。 「山と渓谷2015年2月号」