《たいすけ》の山よもやま話 山の法律相談4 免責の有効性

山の法律相談(4) 免責の有効性            

 

                                    岳 遊 子

 

□ 設問:責任を免れるための同意書に効力はあるか。


 山岳会は山行中、メンバーがアクシデントを起こさないように細心の注意を払っているが、万一に備えて「事故によって損害を受けた場合でも山の会に対して損害賠償請求をいっさい行なわない」という同意書は有効か。
        
回答:消費者契約法では、「事業者」がいっさいの責任を負わず、損害賠償責任のすべてを免除するという条項を無効としている。合同登山を主催する山の会はこの「事業者」にあたる。したがって、すべての責任を負わないという免責同意書があったとしても法律的には無効である。クライミングジムなどの入会承諾書に見られる「施設内で起こった事故について、いっさいの損害賠償を請求しない」という条項についても、同じように無効である。
免責同意書は無効だが、事前の説明会では登山中にどのような危険があり、どのような範囲では自分の判断で行動するかといったリスクや自己責任について参加者に説明するという意味合いが重要である。そして、そのような説明を行うことは裁判の際に注意義務の有無について判断する材料になる。今回の設問のように山へ案内すると言って会員外の人を募ったとき、会員同士の山行のときと違って参加者に対する安全義務が生じる場合がある。ただし、合同登山の実施形態によって異なり、義務が生じないケースもある。
  日本では包括的な免責同意書は無効だが、国によっては一定の効力が認められている。たとえばアメリカでガイド登山などに申し込み、事前に登山に伴うリスクについて詳しい説明を受けて免責事項に署名した場合、万一のときにはこの同意書が一定の効力を持つ。

 

 

□ クライングジムでの事故

管理者があいまいな登山道に比べて、クライングジムの人口壁は設置・管理者がはっきりしている。そのため、ホールドの破損などによって事故が起こった場合に管理者の責任が問われる。人口壁での重大事故が増えており、人口壁に関する紛争が増えている。

 

 

リスクの説明
自然には必ずリスクがある。登山はリスクを認識し、それを受け入れたうえで、リスクをコントロールすることによって成り立つ。登山に関して、リスクの説明義務が問題なった裁判例は日本にはまだないが、ミーテングのときリーダーはその山行のリスクをメンバーに説明することによって事故防止につながる。

 

 

まとめ:

山岳会がすべての責任を負わないとう包括的な同意書は無効である。

 

*参考文献:「山岳事故の法的責任」溝手康史著 星雲社。 「山と渓谷2015年2月号」