《たいすけ》の山よもやま話 ”私のガイドライン”

 

            私のガイドライン                

                                  岳 遊 子


前書き:山は言葉だけでなく本当に魅力的なところだが、その魅力的な顔が時として恐ろしい形態に変わってしまうのが山の性格であり、まさに自然そのものである。即ち自然はネイチャーとワイルドの両方を持っている。魅力的であった登山が登山者のわずかな油断や準備不足で思わぬトラブルを招く。そのようなことが起こらないために、常日ごろから自分なりの指針というか心がけというかガイドラインを持ちたいと思って文意が十分でないが述べる。皆さんも自分のガイドラインを持たれることをお勧めする。
計 画
・ミーデング⇒計画の作成、情報収集や共同装備の分担を決めるためにミーテングを行う。ミーテングは皆で決めた約束事だ。忠実に守りたい。ミーテングに参加した者だけがその山行に参加できる。
登山届⇒現地の警察署に届ける。届以外に予備を持つ。家族にも置く。山行ルートを明確に書く。
・登山計画⇒企画は希望の7分目にする。プランが適切かどうか考える。エスケープルートを設ける。登山計画は逆算で作る。帰着時間→下山口→頂上→登山口→自宅出発→前日就寝時間
・現地の最新情報を入手する。⇒登山道の状況。降雪の有無。登山口までのアプローチ。周辺施設の営業状況の確認(交通機関、山小屋の営業など)
・気象情報の取りかた⇒専門天気図。HBC北海道放送の気象情報。雷は電力会社の雷情報を参考にする。
           天気予報は人間社会の範囲であって、山岳地域の予報ではない。
山 行
・山行の大半は午前中のみの登山を心がけ、午後からは上部(頂上)を登ることを目指さない。
・安全登山の思想⇒自然のことは分からないのだから、まず自分が持っている限界を現実的に理解させ、それを身体に覚えさせ撤退のガイドラインを考える。このガイドラインのレベルを引き揚げるのに技術の向上が必要だ。
・緊急時の対応の先ず一番最初にやること⇒
1. 冷静であること 2.事故当時者以外の安全の確保(2次事故の防止) 3.現場の正確な把握(人里から遠いというリスク。救助依頼と事故報告が容易か否かを確認する)
・突然のアクシデントを防ぐには⇒いつもの山は、いつも同じではない。常にアクシデントに対して考える。行動中でも反射的に考える。考えたことに対して、反射的に備える。繰り返し考え行動する。
・山行当日、大荒れ予想があれば山域の変更や中止をする。雷鳴が聞こえたら山行を中止して下山する。
・疑似天候⇒悪天候の狭間で一時的に晴れ間が広がる疑似天候にはまらない様に注意する。
・水分補給⇒脱水症状、熱中症、低体温症、高山病、脳梗塞そして心筋梗塞などの防止。
・読図をする⇒地図読みの名人でもいつか道に迷うことがある。概念図を紙や機械の中ではなく、頭にしっかり入れる。迷った場所を分かるようにする。帰るべき方角を分かるようにする。分岐、分岐では現在地を確認する。常に読図をするくせをつけて、道迷いから脱出する。一方、アフリカの諺に「道に迷うことこそ、道を知ることだ」がある。これは「人生で道に迷いながら自分で正しい道を見つけること」が、本当の道を知ることだ。という意味である。
□冬山
・積雪期でもトレースや立ち木のピンク色のテープをたどってばかりはダメ⇒別ルートへのトレースであったり、営林署や工事用のテープかも知れない。
ホワイトアウトではむやみに動かない。保温に努めながら、その場で視界が開けるのを待つ。
悪天候時には雪庇とルートとの判別が難しい。風の強い尾根は雪庇があるのは当たり前。
・雪崩⇒ドカ雪、急激な温度の上昇などは、積雪状態を不安定にし、雪崩リスクが高い。最低山行3日前からは、現地の天候を調べ、リスクがある高い時は計画を変更する。30㎝以上のドカ雪は山行を中止する。(弱層テストは不要)
ラッセル⇒ラッセルで進む山では、尾根上の樹林帯や緩斜面などをルートの設定する。急斜面や沢状の地形、木立がまばらに立つ雪面などは雪崩のリスクが高い。
・下りのとき、互いに確認できる範囲で滑降する。(雪崩による埋没の予防)

低体温症
・低体温症⇒山ではどうしても濡れる。ゴアテックスのレインウエアーを着ても100%濡れを防ぐことはできない。寒さは気が付かないうちに忍び寄り、急激に変化する。寒く感じたらすぐウエアを着る習慣をつける。ベースになる撥水下着で体を冷やない。

その他
・危険とは予測できるものと考える⇒転落。滑落。落雷。雪崩。落石。低体温症。熱中症。これらの要因は、ほとんど場合、経験、知識、技量などによって予測可能。
・想定外を減らす方法⇒知識不足→漫然と登っているだけではダメ。経験不足→もっと事前に現地の情報収集を行う。情報不足→当日の気象について関心を持つ。
・「慣れ」の罠⇒「慣れ」は安全意識を低下させる。「慣れ」は必要な手順を省かせる。「慣れ」は必要な装備を省かせる。
・バテないコツ⇒「己を知り、山を知る」こと。自分の技量に合わせた計画を組む。基礎体力をつける。
水分補給と食事の大切さを理解する。季節と山とルートによってウエアと用具を正しく選ぶ。用具を正しく使いこなす。山の情報を収集する。
・自然のことは分かりきれない⇒分かったと思い込む考え方を変えなければ危険な登山になる。すなわち知っていることと、分かっていることとは違う。
・知っていること⇒人から聞いたり、本を読んだり、技術講習を受けたり、体験そのものではなく知識として蓄積されたもの。
・分からないこと⇒山に対して経験したことがないこと。
・そもそも、山のリスクは変化する⇒山行範囲によって、標高によって、天候によって、季節によって、そしてメンバーによっても変化する。
・86歳過ぎたら標高4000mを超える山を登らない。