大雪山にある色が付いた山々(1)

大雪山にある色が付いた山々   (1)                          泰輔

黒岳; 標高1984m 表大雪

 お鉢平の東方に位置し、小泉岳の植物学者・小泉秀雄の書いた記録に「山頂付近は鋭くとがり、黒色をしている・・・・」という意味の記述がある。そこから黒岳と呼ばれるようになった。夏には高山植物が咲き乱れ、北鎮岳の白鳥の雪形の広がる雄大な風景を楽しむことができる。山頂から黒岳石室までの黄色いウコンウツギやチングルマ大群落は夢のような花街道だ。やがて冬になると黒岳の北斜面は道内有数のスキーゲレンデと形態が変わる。記録によると冬の初登頂は大正11年(1922年)3月で、旭岳とほぼ同じメンバーだそうだ。

黒岳と同名の山は全国に14座ある。大雪山の黒岳より標高の高い山は北アルプスの黒岳2,986m(水晶岳の別名)と山梨県大月市大菩薩嶺・黒岳1,988m。一番低い山は長崎県対馬市の黒岳193mがある。

 

女性初のピオレドール賞の谷口けいさんの遭難事故 

 2015年12月21日。7,000~8,000m級の高峰を制覇した谷口けいさん(43歳)が冬の黒岳であっけなく散った。谷口さんは男性4人と黒岳の「北壁」と呼ばれる登山道とは離れた急峻な岩登りのルートから登っていた。事故は山頂付近に達した後、用をたすため、アンザイレン(お互いの体をつないでいた安全ロープ)を外して一人でその場を離れて行った。なかなか戻らないので、仲間が探しに行くと、北西側の岩場の影の崖のそばに両手の手袋とザックが残されており、その150mほど下の斜面に滑落跡らしきものがあった。当時現場は天候が悪く、救助ヘリによる捜査もできないほどであった。そういう状況ならなおのこと一瞬気を抜いて誤って滑落した可能性が高いことに無念さが残る。翌日の捜査で、700mほど下の斜面で、雪に埋もれた状態で谷口さんの遺体が見つかった。全身を強く打っており、死因は脳挫折傷だった。トップクライマーでも気を抜けば危険なのだ。それが山なのだ。

f:id:hyakumatu_sapporo:20200717095937p:plain

谷口さんは和歌県生まれ千葉県育ちで、子供のころから植村直己にあこがれていた。明治大学卒業後に本格的に登山を始め、山岳ツアーガイドなどをしながら2002年から野口健エヴェレスト清掃隊、マナスル清掃隊に参加し、両峰に登頂している。その後、ゴールデンピーク(7,027mネパール)、ライラピーク(6,200m)、シプリン(6,543m)に次々に登った。さらに、カメット(7,756mインド)に未踏の新ルートからアルパインスタイル(酸素ボンベ、ザイルなど装備をできるだけ使わない登山スタイル)で登頂したことで「ピオレドール賞」を受賞している。国際的な実績のある登山家とあって、海外の山岳メディアなども谷口さんの死を悼んでいる。

豆知識;「ピオレドール賞」(フランス語:Piolet d’Or)

優秀な登山家に贈られる国際的な賞。フランスの登山誌「モンターニュ」と「グループ・オート・モンターニュ」が主宰している。ピオレドールはフランス語で「金の斧またはピッケル」という意味。登山界のアカデミー賞の異名を持つ。         2020、7記