山の安全講座・救助要請(学習会資料2020-08-20)

山の安全講座:救助要請

 

Ⅰ ビバークする

  1. f:id:hyakumatu_sapporo:20200820143045p:plain   なんらかのアクシデントによって行程が計画どおりに進まず、下山できなかったり目的地にたどり着けなかったりした場合には、山中でビバークすることになる。

 

その際にもっとも大切なのが状況判断である。「山中でツライ一夜を過ごすよりは、多少無理してでも下山したほうがいい」などと考えてしまうと、いたずらに体力を消耗するだけでなく、夜間の行動中に転滑落を引き起こすなどして、状況をいっそう悪化させることになる。そうならないように、リーダーは残りの行程と日没までの時間、それにメンバーの体力などをよく考え、「無理そうだ」と思ったら早めにビバークを決断しよう。

 

ビバークと決めたら、さっそく場所探しにとりかかる。ツライ一夜になるかどうかは、場所選びにかかってくる。増水が懸念される沢沿い、転滑落や落石 の危険がある斜面や崖のそばはNG。風雨をまともに受ける尾根状や山頂も避けたい。なるべく平坦な場所で、風雨が避けられる樹林帯や潅木帯のなか、岩陰などが見つかればベストだ。こうした場所選びも、日が暮れてしまうと困難になり、場合によっては危険な場所でのビバークを強いられることになってしまう。明るいうちに決断を下すのは、そのためでもある。

 

場所が決まったら、次にツエルトを張ろう。いうまでもなく、ツエルトは山登りの必携品である。かぶる、くるまる、下に敷く、タープ状にして使う、簡易テントにするなど、使い方はいろいろ。状況に応じて使い分けよう。標高の高くない無雪期の山であれば、100円ショップで入手できるブルーシートをツエ ルトの代用にしてもいい。

 

ビバーク中の大敵は寒さなので、できるかぎりの防寒対策を講じたい。とくにツエルトもブルーシートもない場合はなおさらである。まず、明るいうちに 枯れ木を集めてきて火をおこし、その火を一晩中絶やさないようにすること。火があるのとないのとでは天と地ほどの差がある。着られるものはすべて着込み、 地面からの冷えを防ぐためには空にしたザックを体の下に敷く。温かい飲み物を飲むのも暖をとるのに効果的だ。また、少しでも体力を回復させるように、可能なかぎり睡眠をとるように心がけよう。

 

 

 

 Ⅱ 道に迷ってしまったら

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正しいルートに戻るのが優先

登山者ならば、山で道に迷ってヒヤッとした経験は誰にでもあると思う。それが大事にいたらずにすんでいるのは、深みにはまり込む前に正しいルートに戻れたからだ。

 

もし山で道に迷ってしまったときには、とにかく正しいルートに戻ることを優先させること。焦ってむやみにあたりを歩きまわったりせずに、その場で休憩をとり、行動食を食べたり水分を補給したりしてまずは気持ちを落ち着かせよう。冷静さをとり戻したら、周囲の地形をよく観察してみる。そばに登山道らしきものがないか、少し離れた木の枝や沢の対岸に赤いテープやペンキのマーキングがつけられていないかなど、注意深く観察すれば呆気なく正しいルートが見つかったりするものである。

 

見つからない場合は地図とコンパスを取り出し、最後に現在地を確認した地点と、歩いてきた方向・時間を考慮して、おおよその現在地のアタリをつけてみよう。それによって、「もしかしたらここで間違えたのかもしれない」と思い当たることが出てくるかもしれない。たとえば、正しいコースは山腹を巻いて続いているのに、知らず知らずのうちに尾根上に上がっていたなんていうのはよくある話だ。

 

それでも現在地あるいは正しいルートがわからないのなら、最後に現在地を確認した地点まで引き返す。「もうちょっと先まで行ってみよう」「迷ったというのは自分の思い過ごしかもしれない」などと都合よく考えて先に進んでいってしまうのは、道迷いの深みに陥る典型的なパターンである。少しでも「あれ、おかしいな」と感じたら、なにはともあれその場から引き返すことだ。

 

引き返していくときには、周囲の風景によく注意しながら慎重に行動しよう。とくに尾根や沢の分岐、雪渓上、落ち葉が積もって踏み跡がはっきりしない箇所、岩がゴロゴロしているガレ場などでは、来た道がわからなくなって違うほうへ行ってしまうこともあるので、充分に注意したい。たどってきた道を忠実に引き返していけば、必ず間違えた地点が見つかるはずなので、そこから正しいルートに戻ればいい。

 

なお、道迷いから脱出するときには、地図、コンパス、高度計、GPSといったナビゲーションツールを最大限に活用しよう。これらのツールは、ただ持っているだけでは意味がないので、確実に使いこなせるようにしておくこと。

 

自力下山か救助要請か

さて、山で道に迷ったときの最悪な行動パターンといったら、沢を下っていってしまうことである。樹林帯に比べ、ヤブなどがない沢は歩きやすく、しかも下へ向かっているため、「このまま山麓まで下っていけるのではないか」と錯覚して、ついふらふらと入り込んでしまいたくなる。しかし、下っていくうちに、やがて崖や滝や堰堤に突き当たって進退窮まるのが沢というもの。それを無理やり下ろうとして転落しまう事故が後を絶たない。どんなに歩きやすそうに見えても、絶対に沢は下っていかないことだ。

 

逆に奨励したいのが、ピークや尾根に上がること。道に迷って精神的にも体力的にも余裕がない状態では、上へ向かって登り返していくのは大変おっくうに感じられるはずだが、それでも登っていくべきである。ピークや尾根に上がれば視界が開け、地図とコンパスでの現在地の確認が容易になるうえ、登山道はピークや尾根を通っていることが多いからだ。

 

ただし、ガスや悪天候などで視界が悪いときは、目印になるものが見つけられないので現在地を確認するのがなかなか難しい。そんななかを躍起になって動きまわっても、ただ体力を消耗するだけだ。地図とコンパスを使っての現在地の確認は、周囲の見通しが利いてこそ可能になるもの。視界が悪いときには無理して行動せず、風雨を避けられる場所で体力を温存しながらじっと待機するのが得策だ。

 

それでも状況がよくならないとき、あるいはどうしても正しいルートに出られないときは、日が暮れる前に安全な場所を探してビバークの準備にとりかかろう。ビバークの態勢に入ったら、翌日に備えてなるべく体力を消耗しないように努めるとともに、現状をどう解決したらいいかパーティのメンバーとよく相談しておくこと。

 

こうなった時点での選択肢はふたつ。あくまで自力で下山するか、救助を待つことにするか。山登りは〝自力下山〟が大原則であるが、無理やり下山を強行しようとして命を落としてしまったのでは元も子もない。天候や周囲の地形、道迷いから脱出できる見込み、メンバーの体力などをよく考えたうえで判断を下そう。

 

もし救助を待つのであれば、捜索のヘリコプターに発見されやすいようにできるだけ開けた場所を探しだし、その周辺で待機すること。場合によっては発見されるまで数日を要するかもしれないが、ひたすら耐えるしかない。携帯電話や無線での救助要請は当然試みるべきであり、運よくレスキュー関係者に連絡がとれたら、自分たちの状況を説明したうえで関係者の指示に従おう。

 

 

Ⅲ ヘリコプターレスキュー

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今日のヘリレスキュー

前述したように、今日の山岳遭難救助はヘリコプターなくして語ることはできない。

 

まだヘリコプターが山岳レスキューに使われていなかった時代は、遭難事故が起こると救助隊が組織され、山麓から歩いて現場へ向かい、遭難者を背負って下りてくるのが当たり前だった。このため、天候や遭難場所によっては救助するまでに数日かかることも珍しくなく、その間に遭難者が息絶えてしまうこともあったという。それが今日では、条件が整っていればただちにヘリコプターが現場へ向かい、早ければ1時間ほどで遭難者を救助してきてしまうのである。昔の救助を知る人にとっては、考えられないことであろう。

 

山岳遭難事故におけるヘリコプターの導入は、救助活動のスピードアップを実現し、昔なら間違いなく死んでいたはずの重傷者も命が助かるようになった。ヘリコプターのおかげで命を助けられた登山者、あるいは後遺症も残らずに早期の社会復帰が果たせた登山者は、かなりの数にのぼるはずである。

しかし、ヘリコプターはけっして万全ではない。山岳地特有の不安定な気流や複雑な地形が、山でのレスキューをより困難なものにしているからだ。まず、悪天候のときは飛べないと思ったほうがいい。平地は晴れていても、山に雲がかかっていればアウト。たとえ山が晴れていたとしても、風が強ければやはり 飛行を見合わせなければならない。また、地形によっては現場に近づけない場合もあるし、夜間の飛行も禁じられている。

だから、もし冬山で遭難し、悪天候が1週間ずっと続いたとしたら、その間はヘリコプターも飛ぶことができない。実際、こうしたケースはよくあることで、そういうときには昔のように救助隊員が山麓から歩いて救助に向かうことになる。

 救助要請をすればすぐにヘリが飛んできてくれると思ったら大間違いである。

 

ヘリレスキューの現状

国内におけるヘリコプターレスキューは、警察、消防、自衛隊、民間ヘリ会社によって行なわれている。自治体によって多少の違いはあるかもしれないが、救助要請が入ったときにまず検討されるのが警察ヘリか消防の防災ヘリの出動である。たいていの遭難事故の場合は、警察ヘリか防災ヘリのどちらかが救助に向かうことになる。

 

だが、警察ヘリにしても防災ヘリにしても、山岳遭難救助のためだけに配備されているわけではなく、救助要請が入ったときにほかの用途に使われていたら、当然、出動することはできない。また、オーバーホールに入っているときも同様に機体繰りはつかない。さらに、遭難現場の地形や気象条件によっても「飛べない」と判断されることもある。

 

このような理由からどちらのヘリも救助に向かえないときには、民間のヘリ会社に出動が要請される。

 

もうひとつの自衛隊ヘリは、県知事の要請がなければ出動できないため、山岳遭難レスキューに積極的に使われることはあまりないようだ。ただ、大きな遭難事故が起こったときや、警察ヘリも防災ヘリも民間ヘリも手配できない場合などには出動することになる。

 

これらのうち、警察ヘリと防災ヘリと自衛隊ヘリには救助費用がかかってこない。一方の民間ヘリは有料で、救助費用は遭難者が負担することになる。

ちなみにある航空会社の場合、捜索・救助の料金は1時間あたり46万5000円。遭難現場がはっきりわかっているのなら、救助は1時間前後で完了するので、救助費用は50~80万円ぐらいですむ。しかし、行方不明などで広域的に捜索しなければならないときは時間もかかるので、費用もかさんでしまう。

なお、救助の要請者は、使用するヘリを指定することはできない。実際に「民間ヘリは高額な料金がかかるので、無料の県警ヘリをお願いします」と救助 を要請してきた遭難者がいたというが、とんでもない話である。どこのヘリが救助に向かうのかは、機体のスケジュールや事故現場の状況などを考慮して決められるのであって、命の危機に瀕している者がそのことに関してとやかく言うのは間違っている。数十万円の救助費用と命とでは、どちらが大事なのか、よく考えていただきたい。

 

余談になるが、今、街では安易な救急車の要請が問題になっているが、レスキューの現場でも同じようなことが起こっている。「疲れたから」「ちょっと おなかが痛いから」などといった、ケガや病気にもならないような理由で救助を要請してくる人が後を絶たないのだ。だが、ヘリコプターはタクシー代わりではない。休憩をとって回復する程度の症状だったら、救助など要請せずに自分の足で歩くべきだ。

救助隊員にしろヘリコプターのパイロットにしろ、遭難者を救うため、命懸けで現場にやってくるのである。警察ヘリや防災ヘリに救助費用はかからないといっても、1回飛ばせば民間ヘリの救助費用と同じぐらいの経費がかかっているのであって、それは自治体の税金によってまかなわれているのだ。そうしたことを考えれば、安易に救助を要請しようという気にはならないだろう。

 

現場の正確な情報を伝える

ヘリコプターによるレスキューは、スピードと機動性が最大のメリットである。その反面、悪天候のときや夜間は飛ぶことができず、天候の回復や夜明けを待って救助を行なうことになる。だが、山の天気は変わりやすく、ついさっきまで晴れていたのに、あっという間にガスがわいてきて視界が利かなくなるといったことはよくある話。そんなときにはヘリがガスの一瞬の晴れ間を突いて現場に突入し、短時間のうちに遭難者を救助してくるということもある。それもヘリだからこそ可能な芸当といえよう。

 

しかし、もし遭難者の正確な位置がわからなかったら、わずかな間に遭難者を捜索している余裕などとてもなく、完全にガスが抜けるのを待たなければならない。そこで遭難者は、自分がいる正確な位置をできるだけ詳しく伝えておく必要がある。

ヘリは有視界飛行とGPS(衛生位置測定器)によって運航されるため、居場所を緯度経度で伝えられればいちばん手っ取り早い。携帯用のGPSを持っているのなら、表示されている緯度経度を伝えればOKだ。また、2万5000分ノ1・5万分ノ1地形図の欄外にも緯度経度が記されているので、ふだんから 読み取る練習をしておくといいだろう。

 

そのほか、天候、風力、風向、視界もヘリコプターの飛行を左右する重要なファクターとなるので、できるかぎり正確な情報を伝えるようにしたい。

 

ヘリコプターに合図する

救助要請を受けて出動したが、現場付近には登山者がたくさんいて、誰が救助者なのかわからず混乱した。そんな苦い経験から、長野・富山・岐阜の3県による山岳遭難防止対策協会では、ヘリコプターに救助を求めるサインを統一させている

 

まず、自分が遭難者であることを伝えるために、雨具やジャケットなどを片手に持ち、上空に向かって大きく円を描くようにして振る。ヘリの搭乗員が確認できる位置まで近づいてきたら、今度は体の横で大きく上下に振る(イラスト参照)。これがヘリに救助を求めるサインである。救助を要請するとき以外にヘリ向かって帽子やタオルやウエアなどを振りまわすと遭難者に間違われる可能性もあるので、絶対に行なわないように。

ヘリコプターが接近すると、風圧でテントなどの装備や木切れなどが飛散するので、飛ばされそうなものはあらかじめ撤収・排除しておくこと。これらが ローターに絡まると、大事故にもつながりかねない。また、積雪時には雪煙が舞い上がるのを防ぐため、着陸または吊り上げ地点周辺の雪を踏み固めておく。ヘリは風下側から進入してくるので、待機するのは風上で。機体には側面や後方から近づいてはならない。必ず前方から近づくこと。あとは現場での救助隊員の指示に従おう。

 

 

Ⅳ 救助要請:救助を待つ

 

救助を要請したあとは、その場所が救助を待つのに適切な場所かどうかをいま一度考えてみる必要がある。救助を待つのに適した場所の条件とは、次のとおり。

 

  • 風雨がしのげる
  • ヘリコプターに発見されやすい
  • ヘリコプターへの収容が可能

 

樹林帯のなかは風雨をしのぎやすいが、ヘリコプターからはきわめて発見されにくく、収容も難しい。ヘリコプターレスキューを前提とするのなら、やはり開けた場所の近くで待機しているのが理想だ。もしその場所が待機するのに適していないのなら、条件のいい場所に移動しなければならない。テントを持っているのなら、開けた場所のそばに張って待機する。近くに山小屋があれば、もちろんそこに避難しているのがいちばんである。

 

救助を待っている間には、事故者の容体をそれ以上悪化させないように最大限の努力をはらおう。現場での応急処置が不充分だったらやり直し、ツエルトやシュラフを使って保温に努めることだ。意識がある場合は、絶えず声をかけて励ますことも大事である。受け付けるのであれば、食事や温かい飲み物を与えよう。

 

ほかのメンバーに対しては、直面している現実を正確に伝え、事故者が救助されるまでの段取り、救助後の行動予定などを順序立てて話し、希望を持たせるようにする。ただし、あまりに楽観的すぎる憶測やいい加減な話はしてはならない。また、事故者を不安にさせるような話もしないこと。とくに事故の責任をなすりつけ合ったり叱責したりするのはタブーである。

 

条件さえよければヘリコプターは間もなくやってきてくれるが、悪天候が続いているときなどは救助活動は長期化することになる。事故者にとってはより厳しい状況となってしまうが、ほかのメンバーはできるかぎりの処置を施して事故者の苦痛を和らげてあげよう。雰囲気も沈みがちになるかもしれないが、とにかく希望を失わないこと。その場で待っていれば必ず助けにきてくれるのだから、みんなで励まし合ってがんばり通すことだ。

 

事故者が不明のときはどうする?

転滑落した事故者の姿が確認できないときは、警察に一報を入れるとともに、ただちに捜索にとりかかろう。警察に連絡がつかない場合は、最寄りの山小屋などに伝令を走らせ、残ったメンバーで捜索を行なう。

ただし、リーダーはメンバーの安全を最優先させなければならず、二重遭難の危険がある場所では絶対に無理をしてはならない。状況次第では救助隊に捜索を任せることにするという判断も必要だ。その際には、現場に数人が残って救助隊の到着を待ち、残りのメンバーは近くの山小屋などに退避させておく。警察の指示があった場合は、それに従おう。

捜索は範囲と時間を決めて効率的に行なうこと。人数がある程度いるのなら、ほかの登山者の誘導や落石の見張りなどを行なうための係を転滑落現場におくといい。見張り要員は、リーダーの指示がないかぎりその場を離れてはならない。また、事故者を発見した場合の連絡方法(ホイッスルや無線など)もあらかじめ決めておく。

事故者を発見したのちの対応は本章で解説したとおり。最初に決めた時間内に発見できない場合は、それ以上深追いはせず、救助隊と合流してあらためて対策を練ることになる。

 

 

Ⅴ 救助要請の方法

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どうやって要請するか

かつては救助要請にはもっぱらアマチュア無線が使われていたが、今では圧倒的に携帯電話による要請が多くなっている。アマチュア無線のように免許を取る必要がなく、日常使っているものがそのまま山でも使えるのだから、緊急時の連絡にはたしかに便利である。

しかし、山で携帯電話を携行していることは、常に連絡手段を確保していることと、けっしてイコールではない。まず第一に、電波が届く範囲の問題がある。携帯電話サービス各社の通話可能エリアは年々広がってきてはいるが、山中ではまだまだつながりにくいというのが現状だ。とくに樹林帯のなかや沢筋にいるときは、まずつながらないと思ったほうがいい。ピークや尾根上は比較的つながりやすいといわれているが、それでも限度がある。奥まったところにある山などでは、山頂にいようとやはりつながらない。

ただし、ちょっと場所を移動しただけでつながるようになることもあるので、尾根上をあちこち動きまわりながら電波の受信できるポイントを探してみよう。行動中に随時アンテナが立つかどうかをチェックしていれば、事故が起こったときに「あそこまで戻れば携帯が通じる」というのがわかる。また、同じ場所であっても、利用しているサービス会社や機種によって電波の受信状態は違ってくるので、たとえひとりが試してみて圏外であったとしても、一応、メンバー全員が各自の携帯電話をチェックしてみることだ。

 

携帯電話が通じたら、以下のことに注意して救助を要請しよう。

 

  • 携帯で通報していることを最初に伝える。
  • 話している途中で切れないように、立ち止まって話す。
  • 通話後はその場を離れず、折り返しの電話がかかってくるかもしれないので電源も切らないでおく。

 

もうひとつの通信手段であるアマチュア無線は、使用するためには免許を取らなければならないので普及度はイマイチであるが、山のなかであっても通信状態は携帯電話に比べ物にならないほどよく(100%ではないが)、緊急時の通信手段としてはベストの選択といえる。とくに長期間に及ぶ冬山バリエーショ ン登山など、リスクの高い山行には絶対に省くことのできない必携装備である。

 

では、もし携帯電話もアマチュア無線も持っていなかった(使えなかった)らどうするか。そのときはパーティのメンバーを最寄りの山小屋や山麓などに伝令に走らせて救助を要請するしかない。途中でのアクシデントに備え、伝令は2人以上で遣わせるのが理想。3人パーティの場合はひとりが事故者に付き添 い、もうひとりが伝令に走る。ふたりパーティなら、近くに登山者がいればその人に伝令をお願いするが、もし誰も通りかからないときは、安全な場所にテントやツエルトなどを張って事故者を収容したうえでパートナーが伝令に向かうことになる。

 

余談といっていいのかどうかわからないが、野外活動における遭難信号の送受信についてもふれておく。遭難信号を発するときは、1分間に6回(10秒 に1回)の割合でホイッスルを鳴らし、1分間休む。これを1周期とし、繰り返し行なう。また、応答信号は、1分間に3回(20秒間に1回)の割合でホイッスルを鳴らし、1分間休む。これを1周期とし、繰り返し行なうことによって、遭難信号に応えたことになる。夜間の場合は、ホイッスルの代わりに発光信号を送る。

 

どこに要請するか

国内で山岳遭難事故が発生したときに救助にあたるのは、おもに警察・消防・民間の山岳救助隊員である。また、大きな事故などのときには自衛隊員が出動することもある。一般に、遭難者の行方がわからず捜索が必要なときには警察(110番)に、事故現場が明確な場合は消防(119番)に連絡を、といわれているが、ほとんどの山岳遭難事故については警察が救助活動の指揮をとることになるので、救助要請の連絡は警察に入れれば間違いない。山行前には、あらかじめ携帯電話のメモリに所轄警察署の電話番号を登録しておくといいだろう。もし所轄警察署の電話番号がわからなくても110番に通報すれば所轄部署につないでくれる。

 

山岳会パーティの事故の場合は、所属山岳会に一報を入れ、会で救助方針を決めてから警察に連絡を入れることもある。また、事故現場の近くに山小屋があるのなら、直接山小屋に一報を入れたほうが対処も早い。

 

山岳会や山小屋は、遭難事故が発生したときの対処法が構築されているので、その後の連絡もスムーズにいくが、問題なのは未組織登山者が家族や友達に 第一報を入れてしまうケース。驚いた家族や友達は慌てて警察に救助要請をするのだが、山のことを知らないうえ慌ててしまっているので、警察は事故の詳細を把握できないばかりか、間違った情報が伝わってしまうことになる。過去の事例では、大人数のパーティが道に迷ってその日のうちに帰れなくなってしまったときに、各自が勝手に身内に連絡を入れてしまい、情報が錯綜して警察が大混乱したというようなことも起こっている。

 

そこで未組織登山者が救助を要請するときは、第三者を介さずに直接警察に連絡を入れるようにし、最初のうちはメンバーが家族らに連絡を入れることも控えさせるようにしよう。また、救助要請をしたあとに、家族らと長電話をするようなことも避けたい。もしかしたら警察が状況確認のため折り返し電話をかけてくるかもしれないし、無駄にバッテリーを消耗させるとイザというときに使えなくなってしまうからだ。

 

なにを伝えるか

遭難事故という思わぬ事態に遭遇すると、救助要請の連絡をしたはいいが、気が動転してしまって伝達事項をうまく伝えられないということが往々にして 起こりうる。しかし、一刻を争うような事態の場合には、少しでも時間のロスをなくし、早急に救助態勢をとってもらわなければならないので、救助を要請するときには必要な情報を正確に手際よく伝えることが重要になってくる。

 

伝えなければならないのは、事故者の氏名・連絡先・所属団体・ケガの度合、事故発生場所、救助要請者の氏名と連絡先、現場との通信手段、ヘリコプターの出動が必要かどうか、など。事前に登山届を提出しているのなら、その旨伝えること。

 

携帯電話や無線がつながらず、伝令を出して救助を要請するときは、持ち歩いている登山計画書に事故者とケガの程度、それに救助要請者を明記して託すといい。また、上記のような連絡書をあらかじめ作成しておいて携行していれば、救助を要請するときに役に立つ。

 

Ⅵ 事故発生時の対処

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登山中に事故が発生したときにどう行動するか。それを誤ると、傷病者の容体を悪化させてしまうばかりか、パーティのほかのメンバーまで危険な目にさらすことになってしまう。なにより怖いのは二重遭難。リーダーはパーティのメンバーの安全を確保しつつ、傷病者の救助に全力で取り組まなければならない。 けっして慌てたり取り乱したりせずに、冷静さを保ちながら沈着な行動をとるように心がけよう。

 

安全な場所への移動

事故の発生直後に行なわなければならないのがこれ。とくに落石や雪崩による事故の場合、現場では第2、第3の落石・雪崩が起こる可能性もある。その場に居続けるのは、むざむざ危険に身をさらしているようなものだ。また、やせた稜線や岩場や急斜面で傷病者を介抱していると、うっかり転滑落してしまう危 険もある。

 

事故が起こったら、リーダーはまず周囲の状況を素早く確認し、二重遭難の危険がありそうだったらすみやかに安全な場所に退避しよう。事故者が行動不能な場合は、メンバーで協力しあって搬送する。人手が足りないのなら、近くに居合わせた登山者に協力をお願いしよう。なお、メンバーがパニックに陥らないように落ち着かせることも、リーダーの重要な役目である。

 

応急手当て

とりあえず安全な場所に移動したら、事故者の容体をチェックし、必要ならば適切な応急処置を行なっておく。ひととおりの傷病に対応できるよう、事前に何度か救急法の講習を受けておきたい。悪天候下では、ツエルトのなかに収容するなど、事故者に風雨・風雪が直接当たらないようにしてあげよう。

 

以上のことを行なったうえで、ただちに救助を要請することになる。救助の要請の方法は、パーティでの山行か単独行か、通信手段があるかないか、近くに山小屋があるかないかなどによって違ってくる。

 

詳しくはチャート図を参照していただきたい。

 

 

自分が行動不能に陥ったとき

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仲間が行動不能に陥ったとき

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Ⅶ 事故発生から救助までの流れ

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原則は“自力救助

山登りは“自己責任”で行なうのが大原則である。登る山を決め、計画を立て、装備をそろえ、実際に山に登る。そのすべてが自己責任で行なわれるべきものなのだ。

だとすれば、その過程で起こった事故についても、当然、自己責任ということになってくる。誰に強制されたわけでもなく、好きで自ら山に登っている以上、事故に対しても自分たちで処理し、最終的に自力で下山してくるのは、登山者の義務といってもいいだろう。

だが、「自己責任で」とばかり言っていられない現実があるのもたしかだ。今の登山人口の大半を占めているのは、山岳会などに所属せず個人で山に登っている未組織登山者である。かつてのように、所属している山岳会の先輩から登山技術をしっかり教えられてきたというわけではなく、ましてやレスキューのノウハウについてはほとんどないに等しいのではないだろうか。

そうした専門的なトレーニングを受けてこなかった今の登山者に、「遭難者の救助は自分たちで」と望むのは酷というもの。事故が起こったときには、どうしても第三者(山岳救助隊、警察、消防、山小屋など)に助けを求めざるをえなくなってくる。

しかし、第三者の助けを求めるにしろ、彼らが現場に到着するまでにはある程度の時間がかかる。その間に現場にいる者は、やるべきことをやらなければならない。なにもできずにただおろおろするだけでは、事故者をいっそう危険な状況に追いやってしまう。では、一刻も早く事故者を病院に運んで適切な処置を受けさせるためには、周囲の人たちはどう行動したらいいのか。その流れを本章では解説していく。

なお、本書は遭難救助を「セルフレスキュー(自力救助)」と「組織レスキュー」のふたつに大きく分けて定義している。セルフレスキューは事故発生直後に現場にいる者が行なうべき初動救助で、そののちに警察・消防・民間などの救助隊やヘリコプターによる組織レスキューに受け継ぐというのが一般的な流れだ。

 

スムーズな手順を踏んで迅速な救助を

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事故発生から救出までの流れは、フローチャートに示したとおりである。

まず、事故が発生して傷病者が出たら、その場の状況を素早く見極め、もし転滑落や落石、雪崩などの危険がある場合はすぐにそこを離れて安全な場所へ移動させる。次に傷病者のケガの程度や容体を観察し、必要であれば応急処置を施す。

また、周囲をよくチェックし、事故現場はどこなのか、地形的に危険な要素はないか、天候はどう推移しそうか、日没までの残り時間は、現場からいちばん近い山小屋はどこか、そこまで傷病者を搬送できるかなど、自分たちが置かれている状況をできるだけ冷静に、かつ総合的に把握しよう。もちろん、自分たち で最後まで処理できると判断したらただちに作業にとりかかるが、その際には手持ちの装備で何ができるか、どのようなレスキューシステムを用いるのが最適か、よく検討すること。救助を要請するのは、とても自分たちの手に負えないと判断したときであり、安易な救助要請は絶対に行なってはならない。

さて、救助を要請したからもう安心、と思ったら大間違いである。今日の山岳遭難救助はおもにヘリコプターを使って行なわれているが、山ではヘリコプ ターが離着陸できる場所はかなり限られてくる。場合によっては、着陸せず空中に静止したまま人を吊り下ろしたり吊り上げたりすることも珍しくない。それにしても、ある程度安定した場所でなければ行なえない。

そこでもし事故現場がヘリコプターでの救助に不向きな場所だったなら、ヘリでのピックアップが可能な場所まで傷病者を搬送する必要がある。周辺の状況にもよるが、条件が悪ければ長い距離を搬送しなければならなくなってくるので、そういった搬送法のノウハウについてもしっかり身につけておきたい。

ヘリコプターや救助隊の到着を待つ間は、傷病者の容体が悪化しないように最善を尽くすこと。なるべく苦痛を和らげるための処置を施し、体温の変化にも注意しよう。とくに悪天候などで救助隊が到着するまで時間がかかりそうなときは、傷病者にとって少しでも楽な環境をできるかぎり整えてあげるようにしたい。

 

 

コラム

自救力アップ講座

経年劣化にご用心!履いていなくても、登山靴は壊れます。

登山靴の中で、ミッドソールに「ポリウレタン」を使用した製品は、「ポリウレタン」が年数を経ることで劣化し(「経年劣化」)、ミッドソールの破壊 が起こる可能性があります。また、ソールを貼り付ける接着剤がポリウレタン系の場合も同様に接着剤が劣化し、ソールがパッカリとはがれてしまう可能性があります。

ポリウレタンは軽量で耐摩耗性に優れ、適度な衝撃緩衝性を持っています。そのため、登山靴やトレッキングシューズのミッドソールに多く採用されてきました。

しかし、優れた性質を持つポリウレタンのミッドソールも、使用頻度や保存状態によって劣化し、突然ソールが剥がれたり、破壊が起こる場合があるので す。この原因として温度や湿度があげられます。一般的に製造後5年程度が寿命とされていますが、これは使用頻度、保存方法・状況によってさらに短くなります。

山に行く前にトレッキングシューズの点検を

もし仮に、山を歩いているときにソールが剥がれてしまえば、思わぬ大きな事故につながります。山行が安全でたのしい思い出になるよう、ご使用前には 必ず登山靴・トレッキングシューズの安全点検を行ってください。そして、少しでも異常が見つかった場合は、絶対に使用しないでください。そして、「靴は壊れるものだ」という認識を持って、どんな靴でも5年ほどの年月が経過したものは新しいものに買い換えるように心がけてください。

 

使用前の点検方法

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登山靴、トレッキングシューズ本体やミッドソール、フック、D環などに以上がないか点検してください。とくに、ミッドソールは、ソールの屈曲を繰り返して ひび割れなどの以上がないかを確認してください。長期間使用していない登山靴、トレッキングシューズは「経年劣化」による破壊が起こりやすいので、とくに 入念に安全確認を行ってください。そして、少しでも以上が見られた場合は、絶対に使用しないでください。

 

 

使用後の手入れ

トレッキングブーツを使用された後には、本体や靴底を水洗いして、泥や土や小石等を除去してください。洗った後は、乾いたタオル等で水気を取ってください。乾燥は、風通しのよい場所で十分に陰干しをした後、はっ水スプレー等でメンテナンスを施してください。

 

保管方法

ビニール袋などで密閉しないように、通気性の良い(風通しの良い)場所で保管してください。高温多湿になる場所(ベランダや物置、クルマのトランクなど) は絶対に避け、また押し入れや靴箱などで保管する場合でも、定期的に風通しの良い場所で陰干しをするように心がけてください。

万一に備えて!

万一登山中にソールがはがれたり、破損が生じたりした時には、応急処置をして最短コースで速やかに下山してください。

そのまま山行計画を続けるのは危険です。「この程度なら大丈夫」と歩き続けたことによる事故も起きています。

 

応急措置

針金や、細引き、テープなどで本体とソールをしっかりと固定してください。

 

針金

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針金は強度が強いのでしっかりと固定できます。ただし、岩場などでは大変滑りやすいので十分注意してください。

 

細引き

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細引きを使用する場合は 、しっかりと結び、時折緩みをチェックしながら下山してください。

テープ

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テーピングテープを使用する場合、ソールのパターンが覆われ、滑りやすくなるので十分注意してください。

※登山やトレッキングでは針金、細引き、ガムテープ、テーピングテープなどは、他の用途でも重宝するので常に携行しましょう。

 

山行前のセルフレスキュー

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ルフレスキューは、救助活動などの「事後処理対策」に限ったものではない。次に挙げるような「事前防止対策」も、広い意味でのセルフレスキューととらえることができる。

 

 

体力、技術を向上させる

体力があればそれだけ余裕をもって行動することができるし、疲労が招くケガの予防にもつながる。また、登山技術はもちろんのこと、セルフレスキューの技術、地形図とコンパスの使い方、気象に関する知識などもきっちり習得しておこう。

 

登山計画書を提出する

山登りはあくまで個人の裁量と自己責任で行なわれるものだが、万一、事故が起こったときには、少なからず社会的な対応が必要になってくる。そのとき に重要な役割を果たすのが登山計画書。とくに山岳会などに所属していない未組織登山者の場合、登山計画書がないと事故が起こったときの連絡先や足取りなど がまったくわからず、対応が遅れるばかりか助かるものも助からなくなってしまう。そこで山行前には、登る山、コース、メンバーの氏名と連絡先、おもな装備 などを明記した登山計画書を必ず作成し、家族や職場に一部ずつ渡しておこう。また、地元の警察署への提出も忘れずに。登山計画書を作成するということは、 山行の情報を明確化することにほかならない。それが最初のセルフレスキューになるものと心得ていただきたい。

 

山岳保険に加入する

今日の山岳遭難救助はヘリコプターを中心に展開されることが多いが、民間のヘリコプターが出動した場合は当然、救助費用がかかってくる。ヘリコプ ターだけでなく民間の救助隊員が出ていれば、さらに人数と日数に応じた費用が請求される。そのトータルは、救助にどれくらいの時間を要したかによるが、少なくとも50~60万円、捜索をともなう救助では数百万円にものぼることもある。それを個人で負担するのはかなり大変なことだが、山岳保険に加入していれ ば、保険金がおりることになる。現在、複数の保険会社や山岳関連団体がいろいろなタイプの山岳保険を商品化しているので、自分の山行形態に合ったものを選択して加入しよう。なお、ヘリコプターを要請するときは、山岳保険に未加入であると、誰が費用を支払うのかを確認してからでないと出動してもらえない。逆に、保険に加入していることがわかればすぐに手配してくれる。それが現実である。

 

救急法の知識を身につける

山では、ケガをしたり病気になったりしても、すぐに病院で治療してもらうというわけにはいかない。そこで登山者自身が救急法の知識と技術を身につけ、実際の山行には自らファーストエイドキットを携行する必要がある。と同時に、搬送法のノウハウもしっかり学んでおきたい。いい加減な手当てをした揚げ句、事故者が痛がろうが悲鳴を上げようが強引に運ぶというひと昔前のようなやり方は、セルフレスキューの考え方から大きくはずれている。事故者に後遺症を残さず、早い社会復帰を実現させるためには、正しい救急法と搬送法を行なわなければならないのである。

 

通信手段を確保する

近年の救助要請は携帯電話を通して行なわれることが多いが、前述したように山では携帯電話がつながりにくい。いざというときにつながらなければ、 持っていないことと同じである。その点、いつでもどこでもほぼ通信可能なのが無線機。アマチュア無線の資格を取得しなければ使うことはできないが、それだけの手間ひまをかける価値は充分にある。迅速な救助要請を行なうために、無線機の携帯をぜひおすすめしたい。

 

非常用装備を持つ

いざという場合にあると役に立つ非常用装備(ライター、マッチ、固形燃料、ろうそく、レスキューシート、細引き、多目的ナイフなど)は、コンパクト にまとめてパッキングしよう。そのほかツエルトも必携。個人で持つもの、共同装備とするものは山行携帯によって異なってくるので、事前にパーティのメン バーで話し合って決めておく。

 

 

自救力アップのすすめ

 

山岳ライター 羽根田 治

 

  1. 今、若者を中心に、登山が再びブームとなっています。従来からの中高年世代と併せ、老若男女を問わず、多くの人々が登山に親しんでいます。山に向かう理由は人それぞれですが、世代や性差を超えて人々を惹き付ける魅力が山にあることは間違いありません。
  2. しかしその一方で、山にはたくさんのリスクが存在しています。たとえば、街で道に迷っても死ぬことはありませんが、山では道迷いが往々にして死につながります。街の道路で転んでもかすり傷程度ですみますが、登山道で転べば転滑落して大ケガもしくは死に至るケースも珍しくありません。些細なミスが命取りになってしまうのも、また山というものなのです。
  3. そこで登山者には、山に潜んでいるリスクを回避する能力が求められてきます。それは、登ろうとする山についてよく研究し、自分の技術・体力に見合った計画を立て、過不足なく装備をそろえることなどによって高めることができます。
  4. ただし、いくら準備万端に整えても、リスクを回避できないときもあります。というのも、自然はときに私達の予想を超える厳しさを見せるものであり、人間の予定調和が通用しない世界だからです。
  5. おまけに、人間はミスをする生き物です。どんなに気をつけていようと、ミスを100%防ぐことはできません。
  6. 今、国内では年に2,000人以上の登山者が遭難事故を起こし、うち死者・行方不明者は300人近くにのぼり、約800人の人が重軽傷を負っています。それは決して人ごとではなく、あなた自身がいつ事故統計に計上されてもおかしくはないのです。
  7. 山での事故要因は、道迷い、転滑落,転倒、低体温症、熱中症、発病,落石、落雷,雪崩、野生動物の襲撃など様々です。では、万一あなた自身が、あるいは仲間がアクシデントに見舞われて負傷したり行動不能に陥ったりしたときに、あなたならどうしますか?
  8. 本来、登山は自己責任で行なうべき行為であり、山行中のトラブルやアクシデントについては自分たちで対処し、最終的には自力下山するのが大原則です。しかし、自分たちの力だけではどうしようもないときには、ほかに助けを求めるしかありません。自分たちだけでどうにかしようとして無理をしてしまうと、逆によりいっそうの窮地に追い込まれてしまうかもしれません。
  9. とはいえ、山の中では助けを呼ぶにしても、救助隊がすぐに駆けつけてきてくれるわけではありません。短くとも数時間、場合によっては1日以上かかってしまうことだってあります。では、救助を待つ間、もしなんの対処もできずにいたとしたら、傷は悪化するばかりで、より深刻な事態に陥ってしまいます。場合によっては、命を落としてしまうことにもなりかねません。
  10. そうならないようにするために必要となってくるのが“自救力”です。
  11. “自救力”とは、読んで字のごとく自分を救う力のことです。言葉を変えれば、セルフレスキューということになります。つまり、登山中のアクシデントによって被ったダメージを、それ以上悪化させないようにするための対応策全般のことを言います。
  12. “自救力”を発揮する過程は、次のとおりです。
    ・事故発生→仲間の安全確認→安全な場所への移動→負傷者の応急手当→救助要請→
    山小屋やピックアップポイントへの搬送→待機→チームレスキューへの引き継ぎ
    もちろん、自分たちで搬送して下山(または自力下山)できるのであれば、それに越したことはありません。
  13. 命が助かるかどうか、後遺症が残らずにすむか、予後の回復が順調に進むかは、この作業をいかにスムーズかつ的確に行なえるか、つまり高い“自救力”を発揮できるかどうかによってきます。
  14. 今、登山ブームの高まりとは裏腹に、“自救力”が備わっていない登山者、“自救力”に乏しいパーティが多いと聞きます。しかしそれは、助かる(助ける)可能性をみすみす放棄していることになります。
  15. 自救力”はひとりひとりの登山者が、ひとつひとつのパーティが持ち合わせるべき技術のひとつです。自分自身の命を、そして仲間の命を守るために、是非とも“自救力”のアップを図かりましょう。

 

 

 

 

抜粋引用:日本山岳救助機構合同会社HPより https://www.sangakujro.com/

抜粋引用:山の安全講座:救助要請 https://www.sangakujro.com/category/blog/safety2/

  参考:山の安全講座:救急法 https://www.sangakujro.com/category/blog/safety/

 

日本山岳救助機構会員制度の紹介

新しい山岳遭難対策制度「日本山岳救助機構会員制度(略称「jRO(ジロー)」)」は、山を愛する方々の相互扶助の精神にもとづく新しい会員制度で、日本山岳救助機構合同会社によって運営されます。