2022-09-17~26 北アルプス表銀座縦走槍ヶ岳と下田山荘山行報告

日本百名山を執筆した深田久弥槍ヶ岳についてこのように語っている。

「富士山と槍ヶ岳は、日本の山を代表する二つのタイプである。(中略)一生に一度は富士山に登りたいというのが庶民の願いであるように、いやしくも登山に興味を持ち始めた人で、まず槍ヶ岳の頂上に立ってみたいと願わない者はないだろう。」

私自身、まさしくその通りに思っていた。また、槍ヶ岳を目指すにあたっては表銀座を縦走し北アルプスの絶景を堪能してもらいたいと先輩たちからも云われていたが、これまで休暇も儘ならず機会に恵まれなかった。しかし、「槍ヶ岳目指すなら今でしょう‼」。そう思い立って計画に着手した。

今年は大KBさんの三段山雪崩遭遇事故(2012年12月16日)から満10年を迎える。

10年を経た今も誰からともなく大KBさんの話題が語られるが大KBさんと同年代の岳友下Dさんも84才になられたとの事。槍ヶ岳からの下山は上高地なので大KBさんの想い出話しをしながら歓談させていただきたいとの想いで下山後は北杜市の別荘地に建つ下D山荘にお邪魔する事も計画に入れた。

当初の参加応募は11名。しかし、前立腺治療と半月板治療で男性二名が断念。その後諸事情で2名のCXLがあり、槍ヶ岳縦走から全行程参加組4名と下田山荘合流組3名の計7名のパーティとなった。

9/17小樽港よりフェリーで出発。航行中は好天で波もなく快適な船旅であった。

しかし、大きな勢力に発達した台風14号は各地域に大きな被害を与えながら日本海沿岸を北上する予報。計画通りの日程では山中で台風と遭遇するこの山行を成功させるためにはどのような対策が必要かフェリー内でメンバーと検討を重ねた。有料、無料のあらゆる天気情報を収集・分析した結果、当初9/19登山開始の日程を一日順延することにより天候は好転すると判断、登山口の中房温泉有明荘で台風を避け停滞することとした。昨今の天気情報は登山口から縦走するコース上の山頂の天候がピンポイントで一時間ごとに表示されるものもあり有料ではあったが大いに役立ち台風情報は完璧に掌握できた。最終的には20日朝から出発時間を検討していたところに“Yahoo雨雲レーダー”の「15分後に雨がやみます」のコメントを確認し08時スタートとした。

早朝まで降っていた大雨の影響で登山道脇の河川はゴーゴーと濁流となって砂防ダムを超えている。予報通り雨は止んだが濃いガス内を歩くため雨具は着たままでの行動だ。合戦小屋までは日本三大急登と云われるが台風が通過し山を歩けるようになったこと自体が嬉しく苦しさは感じなかった。また、花崗岩が風化した白い砂利敷きの登山道は水はけが良く泥濘はなく歩きやすい。標識を一つ一つ確認しながら第一ベンチから第二、第三と進み、富士見ベンチに到着。展望は無いが天気が良ければ見えるだろう富士山を心の目で見ながら休憩。

合戦小屋では名物の“スイカ”。我々4名は到着と同時にスイカがあるかを確認。「残り3名分です」の返答に分け合えば食べられることに安堵。

この時のスイカは人生で一番美味しく感じるほど絶品だった。

展望が殆どない中、だんだん近づく標識を頼りに燕山荘に到着。この時点では槍も燕岳も展望は無く燕山荘をバックに記念撮影をした。

台風余波なので止む無しと諦めかけた瞬間、我々の到着を待っていたかのように、舞台の緞帳が上がるかように一気にガスが晴れ、左手に常念、大天井そして目指す槍ヶ岳が雲海に浮かぶように姿を現した。右手には燕岳の秀麗な山容を見せてくれている。サプライズ‼ 奇跡とも思える瞬間だった。

何度も同じ景色に感動し写真を撮り続けた。燕山荘にチェックインし燕岳へ。一緒に登ってきたアベックに二人っきりでの山頂を譲り、その後は我々4人だけの山頂を満喫した。台風でキャンセルが相次ぎ登山者が少なかったためのご褒美であった。更に下山しようと浅間山方向に目をやると雲海に燕岳が投影されおり何とその山頂部にブロッケン現象が現れた。

台風一過の好天を期待して展望のない中、燕山荘にたどり着いた我々にとって思ってもみないプレゼントで幸せな時間だった。燕岳を下山しながら夕日に色づき始めた槍ヶ岳、雲海の上に浮かび上がる北アルプスの山々の絶景に感動は収まらず周囲の登山者とも感動を分け合った。