2021-9-19~21 1839峰(コイカクシュサツナイ岳夏尾根コース)

【山名・コース】1839峰 コイカクシュサツナイ岳夏尾根コース

【期間】    令和3年9月19日(日)~9月21日(月)

【山行報告】納

 

《1839峰より日高山脈主稜線南方向を望む》

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日高山脈は北海道にある唯一の山脈。

狩勝峠側の佐幌岳から襟裳岬まで南北およそ150 km。

最高峰は幌尻岳で標高2,053 mであり、日高山脈襟裳国定公園に指定されている。

火山活動により形成された大雪山山系などと違い、太平洋プレートとユーラシアプレートの衝突によって形成された地形で、急峻で険しく、稜線はナイフリッジを連ね、氷河地形のカールが見られる日本でも数少ない極めて峻険な山脈とされる。

過去に日高山脈横断道が計画され約20年間工事は推進されたが自然保護への潮流と完成までの工期40年、工事費940億円を費やすとの試算もあり2003年中止が決定された。

日高山系の山行は、登山道がある山は少なく、林道歩きと沢登り、山中泊が前提となり、体力度、難易度が高い。 

1839峰 登山口より歩行距離:27.5㎞ 獲得標高:1,850m

引用抜粋:フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

 

今回は登山者にとっての憧れ1839峰だ。

今年の沢入門で二(輝)さんにペテガリをお誘いすると「今年は1839峰に行きたい」理千子さんからは「1839峰は登ってないって云うから…。」との事で輝男さんに1839峰の参加を伝え、1839峰後にペテガリもと誘ったが「年内に二つは無理」との事で年内のペテガリは改めて検討する事とした。

当初は8月に計画されたが台風で順延となり、9月のシルバーウィークの3連休を利用しての計画となったが今度は勢力の強い台風14号来襲との事で微妙な天候判断となったが、結果、台風一過の3日間が好天に恵まれる予報のため一日順延が決定された。

移動日となった18日(土)は台風の余波で日高・十勝地方は大雨。先発隊から札内川ヒュッテへの道道は大雨のためゲートが閉鎖されていると事前情報があった。

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最悪は山行中止で出戻りだが幾つものケースを想定しながら19時過ぎに待合わせ場所の日高山脈センターに到着した。日高山脈センターは緊急事態宣言下で休業中。駐車場とトイレに外灯はあるが、人の気配はなく増水した札内川の流音が響くだけで静寂…。

トイレに行くにも周囲は全く見えず闇の中を数メートル歩くのにも勇気がいる。車から出る時はカーステレオの音量を上げ熊対策を行う。車中泊をして待っていると22時過ぎ二車が到着。現況と天気予報、降雨予報を確認、最終判断は入渓地点の水量を確認し決定するとし、4時起床、5時出発を決めた。

当初この山行は18日(土)07:00集合、07:30札内川ヒュッテ出発の計画だった。

ゲートが開かなければ装備を持って9.1㎞の道道を歩く事になるがカムエク山行でも入渓地点まで約2時間歩いているし日高の山は簡単には迎え入れてはくれない。

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しかし、2時間歩いたとしても7時過ぎに札内川ヒュッテ到着で当初の計画と大差はない。

いざ、スタート!

ここからは台風の影響を観察しながら歩く。山中の三日間は好天の予報なので山行の可否は入渓地点の水量しだいとなるが道道の脇を流れる札内川は既に落ち着いているように見える…。滝もチェック、支流もチェック…、入渓に支障なしを確信しながら歩く。

夏靴を背負い、沢靴で65㍑のザックで装備を背負ってはいるが皆の足取りは軽い。

07:20札内川ヒュッテ とうちゃこ~!

手早く装備の点検をして登山口へ。また、トンネル一本を歩く…。

入渓地点は案の定、増水、濁流などの危険な兆候はなく、クワンナイ川の水量程度。それでも流速は早く目標地点に着地しようと思っても足先は流されるが順調に沢を遡行した。

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10:30上二股到着。

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ここからが本番、先ずは水確保。2.5㍑×2、1㍑×2のプラパティスとハイドレーションを満杯にした。リュックに水を詰込み、沢装備から夏靴に履きかえていると我々が水汲みをしていたあたりに親子の熊が川筋を下って来た。綺麗な毛並みの若い母熊とコロッと可愛い子熊だ。「リッチャン、写真、写真…。」全員がリュックを降ろしているので手元には何もなく、残念ながら写真は撮り損ねた。

しかし、親子熊がこちらに寄ってきて鉢合わせになってしまっては最悪だ。距離は数メートル、笛を取るためには熊に背を向ける事となる。止むを得ず、唇を震わせ笛の擬音を発した。母熊は一瞬驚きの表情で周囲を見回し小熊と共に対面する尾根に駆け上がって行き事なきを得た。わずか数十秒の攻防であった。

さあ、改めてここからが本番。

沢装備を木にぶら下げ、水を確保し20㎏を超えたリュックを背負いスタートする。

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上二股からのルートは急坂で悪路。輝男さんが先行、1839峰4度目の理千子さんがしんがりだ。登山道は山あり山あり…、直登あり、勾配は45度~60度…。両脇の笹、枝、根っ子を掴み体を持ち上げる。時にはクライミングを髣髴する斜面も登る…。

苦しいが止めようとも帰ろうとも思わない。

延々と続く急登は奥深い1839峰へ続く道。1839峰へ敬意を込めて越えなければならない。

只、これって帰りは下りられるのだろうか…。不安もよぎる。

重いリュックが徐々に効いてくる。

14:30 1,305mテン場到着。

今日の目的地は1719mの“夏尾根の頭”。延々と続く急登を更に標高を400m上げなければならない。ここから先にストックを使える勾配はない。輝男さんとストックをデポ。

ここで改めて水の量をチェック。

19.20日夕朝食1~1.5㍑、20日行動水2~2.5㍑、20.21日夕朝食・下山時行動水2㍑、やはり6㍑は必要だ。リュックにはハイドレーション2㍑を除き7㍑。

本来、水はアクシデントを考えれば余裕があるのが安心なのだが平坦な道ならまだしも、この急登を更に2時間登りきるには重すぎると考え1㍑をデポする事とした。

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16:35 1719mテン場到着し幕営

1839峰が正面に構え明日歩くルートの稜線が連なる。360度パノラマの日高山脈主稜線の峰々に夕日が映えて美しい。

 

《テン場より1839峰を望むパノラマと1839峰への稜線》

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夕食と装備を整え19時就寝。

4時に起床し5時に行動開始した長い一日を終えた。空は晴れ渡り明日の好天を約束してくれている。中秋の名月なのか大きな満月だった。

 

20日4時起床、5時20分出発。

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予想通りの好天、昨日の疲れは感じない。朝日が眩しく稜線を照らし美しい。

05:35コイカクシュサツナイ岳を踏み、アップダウンウを繰り返しながら1839峰への距離を縮める。07:00ヤオロの窓、09:00ヤオロマップ1,794m。

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ここまでの道のりは1839峰への行く手を阻むかのようにハイマツが手ごわい、稜線はナイフリッチが続き左右は切れ落ちている。何度も何度もUP、Downを繰り返す。平坦な登山道は無い。すべてが直登、直降。ハイマツを掴み続けるキリマンジャロに一緒に行った手袋がボロボロに、ズボンは松ヤニだらけ。今回は1839峰に敬意を表してfinetrackの新しいズボンを履いてきたのだが間違いだったようだ。

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ヤオロマップから1,781mのピークを踏み、一度大きく下って1,702mのピークまで来ると前衛峰1,780mが近づいてきた。あれを超えたら1839峰だと気合を入れ直し前進する。

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勾配は45度に近いのではないだろうか…。とにかく登る、登る、登る。前衛峰のピークに着いたと思ったら、まだ先にもう一つ前衛峰がある…。

ここで理千子CLから「12時になったが1839峰を踏むか帰るか」の選択を問われる。

この日の行動は13時間から14時間を想定していた。この時期だとテントに戻れるのは日没は過ぎると覚悟していた。どちらにしてもヘッテンで帰るんだからピークを踏もう!

気合を入れ直し、最後の急勾配を降り、急登に挑む。

12:45 1839峰到着。

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テン場のオレンジのテントが小さく見える。その後ろにカムエクが威容を浮かばせる絶景だ。帰りの時間を考慮し若干の山座同定を楽しみ、翌週登る楽古岳、次なる目標ペテガリに別れを告げ1839峰に感謝し下山した。

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この辺りから前十字靭帯の無い左ひざに軋みが来ていた。この期にあっても輝男さんの早い事、早い事。真似は出来ないと言い聞かせ急降下、急登を慎重に進む。往路で苦しめられたハイマツだったが、ハイマツを利用し登頂できたとの思いもあり、復路もハイマツに苦しめられつつも感謝をしながらテン場へ向かった。

日没が近づき始めたころ好天にも関わらずガスが発生しあっという間に東側稜線が雲海に覆われた。それと同時に輝男さんが「納谷さん虹だ」西側から日が当たり雲海に虹が掛ったように見えた。それがいつの間にか、僕の影が雲海に映り五光が射したように僕を中心に虹が出来ている…。

ブロッケン現象だ!

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小学校の時に利尻岳に登って来た北大生の親戚がブロッケン現象に出合い、白黒の写真で説明してくれたことを思い出した。ブロッケン現象は稜線を歩いている僕に付いてくる。立ち止まってゆっくり観察したいのだが時間が無い。数枚の写真を取りながら1839峰からの登頂祝いだと勝手に思いながら歩き続けた。

周囲はすっかり暗くなってきた。ヘッテンを点けて、山のシルエットを見ながら方向を定めテン場に向かう。暗くなったピークでコイカクシュサツナイ岳の標識を確認し、テン場まで15分~20分である事を確認し安堵した。

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20:00テン場到着。

長い長い一日だったが目標を達成した喜びが疲労感を上回り疲れは感じなかった。

この日は軽い食事を終え就寝した。

21日 好天、爽やかな目覚めでした。

朝食を終え最後の一人がテントから出たとたんに一瞬の強風が襲い。テントは煽られ、舞い上がりあっという間に谷底へと消えた。最悪のケースはテント内に誰かが残っている時に強風に煽られ、テン場周囲の急斜面へ転落したらと思うとゾッとしました。

とは云え、反省点はありますのでテントの設営手順を改めて学び直したいと思います。

会費で購入したばかりのテントを紛失してしまい会員各位にはお詫び申し上げます。

紛失したカミナドーム4のテント一式は可及的速やかにメンバーにて弁償させて頂きます。

 

06:05下山開始

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《名残惜しくもテン場を撤収し下山開始》

 

テン場の1719m夏山の頭からの下山も、笹・ハイマツ・枝を掴みながらのクライムダウン、気の抜けない下山を続けた。

08:55上二俣到着

沢靴に履き替え、少し深めの沢を意識して歩き火照った足を癒しながら札内川ヒュッテに向かった。

 12:00札内川ヒュッテ到着

ここからは閉鎖されていたゲートに向かう約9㎞の道道歩き。

三人で装備を背負って歩くのは非効率と考え、装備をデポし輝男さんとゲートまで行って車を取って来ようと云うことになり、二人でいざ行こうとした時、輝男さんがジョギングをし始めました。とてもこの時点でのジョギングは無理、輝男さんにお任せすることとし、理千子さんと山ぶどう取りをしながら待つことにしました。それにしても1839峰下山後すぐにジョギングが出来るとは古希を迎えた輝男さんのフィジカルに完全脱帽でした。また、輝男さんのリクエストに応え、これが最後との思いで4度目の1839峰に挑んだ理千子さんにも敬意を表します。

聞きしに勝る、厳しくも威厳に満ちた名峰1839峰でした。

登頂を信じて、強い思いで臨んだチャレンジが1839峰へ導いてくれたものと思っています。

二ご夫妻、ありがとうございました。